騎士と水蜜桃


 この世界で神と呼ばれ、悪魔とも呼ばれている種族達。
 彼らにとって不快でない方を選ぶとすれば神と呼ぶべきだが、人間の勝手な期待の混じったその名も、本当は相応しく無いのかもしれない。
 その一族は人よりもずっと寿命が長く、今はもうこの世界では失われた沢山の英知を持っている。
 彼らは昔人間達に混じってこの世界に暮らしていたときから、その圧倒的な力と知識ゆえに、悪魔だ、神だと勝手な期待と憎悪に晒され続けた。
 それ故に今は人間達と袂を分かち、別の世界に暮らしている。
 一族と人間が別れた時、中には人間と同じ定命となることを選び、この世界で暮らすことを選んだ仲間もいた。
 彼らは次第に人間と混血していき、今はエルカーズ人と呼ばれている。
 エルカーズ人達はこの世界を去っていった神と繋がる術を持ち続け、その助力を得て強大な国を築いた。
 しかし、時とともにその術を知るものは少なくなった。さらに、百年前王が発狂したのを境に、今では神官の中ですら神を呼び出す方法を知るものはほぼ失われてしまったという。
 ――だが、ここフレイの町には、異国人にも関わらず神を呼び出す術を知り、あまつさえ畑仕事を気軽に頼んでしまった青年がいた――。


 よく晴れた朝、レオンは屋敷の庭先に立ち、久しぶりに自分の菜園を見渡していた。
 今はちょうどキャベツとエンドウ豆の収穫時期だ。
 バジルは摘芯の時期を逃してしまい、一面に白い花が咲いてしまっている。
 西洋ネギは青々とよく育っていた。
 畑の様子からは雑草の除去や追肥など、マルファスとハルファスがとても小まめに世話してくれていた様子が伝わる。
「神なのに、畑仕事など押し付けて悪かったな……」
 急いでいたとはいえ申し訳なく思いつつ、レオンは屋敷の裏庭へと足を進めた。
 レオンとカインはこれから王都にしばらく仮住まいをしなければならない予定だし、マルファスとハルファスも建築家として本格的に王都の復興に携わる予定だ。
 折角育てたこの家庭菜園を、この先どうしようか――そんな悩みを抱きながら庭を歩く。
 王都では神殿の世話になる為、恐らく食糧には困らないだろうが、いずれはここに帰ってくる。
「もう少し王都とフレイの町が近ければな……」
 ため息をつきながら視線を落とした時、レオンはふと、足元に自分では植えた覚えのない植物が裏庭にあるのに気付いた。
「なんだ?これは……」
 木の根のような色の、植物の太いツルのような長い物が地面を這っている。
 その出所を辿っていくと、なんともいえない不気味な樹木が裏庭の外れに生えているのに行き当たった。
「こんな木、あったか……?」
 樹皮が黒々としていて、幹の太さはレオンの胴ほどある。
 その丈はレオンの身長の三倍程だろうか。
 緑の葉が密生していて、それとは別に、上から何本もムチのような茶色く太いツルが長く垂れている。
 さっき気付いたのはそのうちの一本だったようだ。
 見上げると枝葉の合間に妙に艶かしいピンク色の実が生っているのがチラチラと見える。
「なんだろう……植えてからうっかり忘れたんだろうか……」
 それにしては大きく育ち過ぎている。
 試しにその実を一つもいでみた。
 実は太陽の熱であたたまり、表面に産毛の生えたその感触はまるで人間の皮膚のようだ。指の腹で押してみると柔らかく凹み、熟しているようだった。
 更に爪を立て、二つに実を割ってみる。
 その断面も濡れたピンク色で、まるで生き物の粘膜のようだ。
 鼻を近付けるといままで嗅いだことの無い甘くて美味そうな香りが漂った。
 その匂いを吸えば吸うほど、濡れた果肉を味わってみたい誘惑がムズムズと湧いてくる。
 もしかして毒があるかもしれない。
 やめた方がいいと思うのに、まるで何かに操られているかのように我慢がきかない。
(ほんの、少しだけなら――)
 指についた果汁をそろりと舌でなめてみる。
「ん……」
 じいんと舌先が痺れる程、爽やかな甘さと香りが鼻腔を突き抜ける。
 こんな甘美なものは今まで食べた事がない。
 我慢できずに果肉を千切り、唇の中に含む。
 柔らかで舌の上で溶けていく繊細な甘味と感触に、思わず目がトロンとしてしまう。
(う、美味い……)
 幼い頃から果物や菓子を余り口にしてこなかったせいか、レオンは甘いものはどちらかと言えば苦手な方だ。
 それなのに、一度味わってしまうとその甘味への欲が止まらない。
 あと一口。
 あともう少しだけ。
 せめて、半分……。
 理性が止める声も聞かず、気がつけば直接果肉に口を付け、ジュルジュルと吸い付くように果実を貪っていた。
「はぁっ、んむっ、……ちゅ……」
 果汁を吸い、むしゃぶりつくのを止められない。
 ――夢中になって食べているうちに、少しずつ頭が朦朧とし始める。
「ん……っ、ぁ……」
 指先が痺れて果肉をとり落す。
 膝が崩れ、それでも落ちた果肉に手を伸ばそうとして、――そのまま地面に倒れ、何もかもが闇の中に堕ちた。


 気付けばレオンは屋敷の二階の寝室に横たわっていた。
 窓からは白い光が差し込んでいる。
 昼間だというのにあたりは不気味なほど静かだ。
 自分の心臓の音が聞こえそうなほどの静寂の中で、レオンはベッドに手をついてゆっくりと身体を起こした。
 何故か肌には何も纏っていない。
 無防備な裸身のまま辺りを見回す。
「カイン……?」
 どうして一人でここに寝ていたのだろう。彼はもう外へ出掛けたのだろうか……。
 起こして欲しかったのにと、ひどく寂しい気持ちになり膝を抱える。
 すると、ドアを軽くノックする音が聞こえた。
 この屋敷に断りなく入ってくるのは、カインと兄2人だけだ。
 しかも寝室に来る者といえば1人しかいない。
 そのはずだが、念のためベッドに掛かっていた濃緑色の毛布を引き寄せて身体を隠す。
 次の瞬間に扉が開き、そして――入ってきたのはオスカーだった。
「……レオン、こんな所に居たのか」
 彼は後ろ手に扉を閉め、こちらを見ると安堵したように優しく微笑んだ。
 家の中なのに何故か、美しい白い礼装を纏っている。
 彼の蜜色の髪が輝きながらその肩で踊り、思わず見惚れてしまう。
 その外見でいる彼にも惹かれてしまうのは、初めて恋を自覚したのがオスカーに対してだからだろうか。
「ああ、寝てしまっていたみたいだ」
 はにかみながら毛布を剥がしてベッドから降りようとすると、オスカーが手振りでそれを制止した。
 長靴を鳴らして近づき、ぎしりとスプリングを軋ませながら彼がベッドに膝を乗せてくる。
「レオン、……昼間なのにそんな姿のままで……。また愛し合いたくなるだろう……」
 大きな手が裸の腿に触れ、凛々しい顔立ちが近づき、口付けをされて押し倒された。
「ん……っ!?」
 熱くぬめる舌を受け入れながら驚く。
 オスカーの姿のまま、このベッドで睦み合ったことは一度もない。
 不審に思い肩を押し返そうとするが、強い力で手首を掴まれ、喉奥まで舌を捩じ込まれた。
「ぅむ……ッ、ン」
 苦しさと共に痺れるような甘い感覚が下腹から湧きあがり、無意識に彼を求めて舌を差し出す。
 全裸の為に下半身の反応は隠すことも出来ない。期待に震えて屹立したペニスをオスカーが指先でつっと撫で上げた。
「もうこんなことにして……私の可愛い騎士……」
「ン……ッ」
 深く口付けたまま、快楽を受け入れる為に瞳を閉じる。
 と、突然また扉がガチャリと開く音がした。
(――え!?)
 心臓が凍るような驚きが背筋に走った。
 レオンとカインの他は誰も入るはずもない場所だ。
「んーっ、んーっ」
 唇を塞がれたまま、オスカーに背後を見ろと必死で訴える。
 だが相手は気付いてくれず、ついに人の気配が部屋の中に侵入して来た。
「おい、お前ら何やってんだ」
 低く艶のある声に、ドッと冷や汗が出る程驚いた。
 唇をもぎ離してオスカーの肩越しにベッドの足側を見る。
 そこに憮然とした表情で立っているのは、人間離れした美貌に、長い銀の髪から突き出た巻角を持ち、白い尾をしならせた異形の男――紛れもなく、アビゴール・カインだ。
「ひっ……!」
 思わず悲鳴に近い声が喉を漏れた。
 カインがあの場所にいるとなると、今自分にのしかかっているこの男は一体誰なのだ。
 恐ろしくなり、必死で四肢を使って抵抗を始める。
 しかし相手はまるで意に介さない。見せ付けるようにレオンを胸の中に羽交い締めにしたまま、オスカーは体を起こしカインと対峙した。
「何を、だと? 見て分からないのか。私達は愛し合っているんだ、――そうだろう? レオン」
 対面で抱かれたままこめかみに口付けられる。
 恐怖に声も出ず、カインを振り返って視線で助けを求めた。
「愛し合ってるっていう面じゃねえぜ、お姫様の方は」
 カインが白い尾をヒュッと空中に上げ、オスカーの手首を鞭のように打つ。体を捕まえていた強い力が緩み、レオンは必死で彼の腕を抜け出した。
「カイン……っ」
 迎え入れてくれた恋人が黒いローブを翻してレオンの裸体を包み込み、抱き締める。
「一体、何がどうなってるんだっ……」
 混乱しながらカインの青白い相貌を見上げる。
「レオン……お前、全身やらしいピンク色になってるぞ……どこまでされた」
 尻の狭間を白い尾が擦り、にゅるりと後孔の中にその先端が入ってきた。
「んぁ……!」
 後孔をニュルニュルと探られ、仰け反りながら感じてしまう。
 目の前に謎の男がいるのに何故カインがこんなことをするのか分からない。
「穴がヒクヒクしてるな……あいつのキスで感じたのか?」
 チクンと中を刺されたのを感じて眉を潜めた。
「やめ……今はそれどころじゃ……っ」
「お前は俺だけのものだろ」
「……!?」
 ベッドの上に戻すように押し倒され、頭側ではオスカーが、足側にはカインが座り、レオンの顔を覗き込む。
「聞かせてくれ……お前はどっちを愛しているんだ? レオン」
 オスカーが真剣な顔でレオンの黒髪を撫でる。
「どっちって、どっちもカインだろう…!? 違うのか!?」
 困惑のあまり泣き出しそうになって叫ぶが、誰もその問いに答えようとしない。
 足元ではカインが屈み、見せ付けるようにレオンのペニスに音を立てて口付けた。
「勿論、俺だよな……? 初めてこれを剥いてやったのは俺なんだからな……今じゃ突かれながらこのヤラシい中身を俺の腹に擦り付けるのが好きなんだ。そうだろう? レオン……」
 オスカーが不機嫌に顔をしかめた。
「お前はよく恋人相手にそんな辱めるような事を言えるな。――レオン、こんな男は放っておいて私だけを愛せばいい」
 両腕が脇に差し入れられ、背中を抱き起こされる。
 後ろに引き摺られたせいか、後孔からカインの尾が外れた。
「……っ!」
「愛おしい私のレオン……お前が初めて恋したのは私だろう? 一緒に旅をして語り合い、少しずつ理解し合って、そして永遠に結ばれたのだ」
 大きな手が張った胸筋を掴み、乳首を優しく指の腹で転がされる。
 もどかしい性感にピンと乳頭が勃ち、熟れた色になって刺激に敏感になってゆく。
「お前は毎晩私の指と舌で可愛い声を上げて達しながら、私を愛してると繰り返した……そうだったな?」
「はっ……ア……っ、やめ……ぅン……っ」
 耳穴にも舌を入れられ、その熱く濡れた感覚と淫らな水音で頭の中が一杯になる。
 とめどない甘い悦びに晒されながらすがるような目でカインを見ると、その燃えるような赤い瞳が怒りに揺れてこちらを見た。
「素直に触られてんじゃねえよ……お前が好きなのはこれだろうが。こっちに来てしゃぶれ」
 カインがローブを脱ぎ捨て、ズボンの前を寛げた。
「行く必要はない。お前はただ可愛く感じていればいいんだ」
「……っ」
 耳元に囁くオスカーの手を振り払い、四つん這いになりながらカインの元へ逃げ出す。
「カイン、何かがおかしい……! 話を聞いてくれっ、カイ……ンぅぐ……!」
 強く後ろ髪を掴まれ、無理やりペニスに口を押し付けられて否応無く口淫を強制される。
 余りにも太いもので喉の奥を突かれ、ゴフっと咳き込みながらも唇を窄めて吸引した。
 半ばヤケになり、彼の喜ぶように舌先を口の中で大きく動かして亀頭を舐め回す。
「っくく……そうそう、これも百年掛けて俺が仕込んでやったんだんだよな……」
「レオンをお前の人形のように言うな……! 可哀想に、きっと生まれて初めて見たものを親と思い込む雛鳥のようにお前以外を知らないだけだ……」
「もういいぜ、レオン。――このスカした野郎に、お前の穴がどんな風になっちまってるか見せてやれ」
 じゅぽんと水音を立てて怒張が唇から抜かれる。
 やっと話せるようになり、今度こそ異変を訴えようとして頭を上げたレオンの腰を、カインの両手が強引に掴んで引き寄せた。
 体をオスカーの方に向かされ、膝を両腕で抱えて持ち上げられて、尾の先を締まった後孔にヌププ……と挿入される。
「ひっ……カイン……話を……あ……ア……っ」
 訴えるレオンにお構いなく、尾はそのまま見せ付けるように中を大きく掻き混ぜ始めた。
「あっ、動かすな……ッアぁ……ダメだ、……っ」
 そこから淫猥な粘液が出ているのを確かめるように、何度も糸を引かせて先端が抜かれる。
「どうだ、見ろよ。毎日精液吸わせてやってるせいか、トロットロの極上の穴に育ってる……」
「嫌っ、だ、っひっ、そんなもの、っあ、見せないでくれ……!」
 尾の動きに合わせて襞の形が柔らかく変わり、入れたり抜いたり、蜜壺を弄ばれる度にそこの感度が上がり、はしたない音が漏れた。
 恥ずかしくて堪らないのに感じてしまい、腰が自然に揺れて尾を何度も食い締める。
「はぁ……あっ、尻っ、変になる……っ」
「尻尾だけじゃ我慢できねえか? ほら、いつもみたいに俺の上に乗って腰を振れ」
 尾が中に入ったまま長大なペニスの先端をあてがわれる。
「んぐぅ……っ、はっ……、カイン、尻尾は抜い……ァああっ!」
 オスカーの緑の瞳に熱く見つめられたまま、レオンの後孔が喜々と開いてカインを受け入れてゆく。
「はぁ……あっ、あ……!」
 内壁を広げられながらズブンと根元まで突き込まれ、奥が痺れるように疼く。
 尾とペニスを両方挿入された息苦しさに、淫らに痙攣しながらハッハッと短い呼吸を繰り返した。
 この訳の分からない状況で、しかもきつくて辛いのに、自分の中で息づく彼が堪らなく愛おしい。
 浅い場所から奥に掛けて断続的に雄と尾を纏めて締め上げ、無意識に快楽を貪ってしまう。
 少しでも動かれたら、前方にいる男の目の前で、恥ずかしい声を上げてイキ果ててしまいそうだ。
(ほんとに、一体どうなって……)
 回らない頭で考える。
 どうしてこんな風になったのかを。
 もう一度思い出さなければ。今朝目が覚めて、自分は庭に出た――そして?
 だが、それを邪魔するように激しくカインの雄が臍の高さまで突き込まれる。
 尾はそれとはばらばらに動き、周囲をのたうち回ってレオンの一番感じる場所を無遠慮に擦り上げた。
「ぁはアッ、んっ、ンぁあ――ッ」
 高い喘ぎが喉から漏れて、理性が吹き飛んだ。 
 両腕を上げて背後のカインの首筋に巻き付け、淫らに両胸を反らして膝をシーツにつけ、カインの性器を呑み込んだまま腰を上下に激しくうねらせる。
「気持ちイイ……っ、カイン……っ、ァは、とまらな……」  
 人前でこんな娼婦のような真似をしたくないのに、快楽を欲して腰を振りたくる自分を止めることが出来ない。
「レオン……綺麗で清純なお前が、これほどまでにふしだらな腰つきをするとは……」
 半ばあきれ果てたように、しかし欲にまみれた瞳でオスカーがレオンに手を伸ばす。
 汗ばんだ髪を撫でられ、その指で首筋を辿り、上下に揺れる乳首を掬って強く抓られた。
「くふぁ……っ、やっ、ァ……!」
 刺激に耐えられず首を振るが、オスカーはやめてはくれない。 
 濡れそぼったペニスの先端を指で優しくヌルヌルと撫でられ、唇ではもう一方の乳首を捉えられて強く吸われる。
 レオンはそれ以上動けなくなり、代わりにただヒクヒクと中を激しく痙攣させた。
「あーっ……ッ、もう……っ」
 白濁がトプトプとオスカーの美しい白い礼装を汚し始めた。
 同時に中にいるカインのペニスも爆ぜ、熱感が腹の奥に広がる。
「ぅあ……っ、中、出て……っ」
 目の前の罪深い光景と、精を受け入れる瞬間の恍惚とした自分を見られている恥辱に震え、同時に深い陶酔を感じる。
 カインのペニスと尾とを搾り取るように締め付けながら、オスカーのペリドットの瞳から目が離せない。
「……ああ……この服はもう着られないな」
 クス、とオスカーが笑み、首のホックを外してきらびやかな金糸の刺繍の入った上衣をベッドの下に脱ぎ捨てた。
 逞しい体が露わになり、次にズボンの前立てを留めていた紐も外し、先走りに濡れた長大なペニスをレオンに見せつける。
 それは紛れもなく、今自分の中にずっぷりと埋められている、カインの雄だ。
「カイン、お前は私だろう。さあ、私の入る場所を開けるがいい」
「……!?」
 言っていることの意味が分からない。
「オスカー、何を……カイン……!?」
 尾がチクチクと中を数か所刺して、レオンの中からするりと出ていく。
「まぁ、たまにはこういうのもいいかもしれねえな……」
 笑みの混じった声が聞こえ、カインの手がレオンの両膝を掴んで持ち上げ、そのままの体勢で膝立ちになった。
 オスカーもまた膝をついて前から近づき、レオンの腰に両腕を絡ませる。
「さあ、私のことも受け入れてくれ、愛しいレオン」 
「こ、怖い……やめろ……無理だ、そんな……そんなこと――」
 流石に二人が何をしようとしているのかが分かり、恐怖に体が硬く緊張する。
「大丈夫だ、今、入るように中を緩めてやったから――ほら、楽しめ、レオン……」
 顎をぐいと尾で押され、顔を振り向かされた。
 カインの美しい瞳に魅入られるように口づけを交わし、それを貪る内に、オスカーがレオンの中に入ってくる。
「……っふ、っぐぅ……っ」
 未知の感覚への恐怖と、無理やりにそこを拡張される鈍い痛みに涙が溢れる。
 内臓どころか骨までも開かれる感覚に身体がギシギシと軋み、息も絶え絶えになりながら2人のものを同時に受け入れる。
「キツ……動けんのか、これ……っ」
 自分で仕向けておきながらカインが愚痴をこぼす。
「無理をさせて済まないな、レオン……だがもう我慢が出来ない……さっきの、中に出されている時のお前の顔を見せられて、私は……」
 オスカーが強く腰を押し付けてきて、レオンは苦しい呻きをあげた。
「……堪らなく、お前を壊してしまいたくなった……」
 緩やかに前側から抽送が始まり、後ろのカインも少しズレたタイミングで動き出す。
 オスカーの指がレオンの大きくピンと飛び出した乳首を愛撫し、カインの尾がそのペニスを優しく扱き上げる。
 中では二本の雄が擦れて悶え、その動きはやがて激しくなって、レオンの中をメチャクチャに掻き乱し始めた。
「ひぁっ、あ――っ、カインっ、やめてくれっ、オスカーっ、こ、壊れる……っ」
 あり得ない頻度で奥を突かれ、浅い場所を擦られ、まるで喉奥近くまで巨大なペニスに犯されているような感覚を覚える。
 深い悦楽に酔いながらオスカーの身体を抱き締め、カインの口づけを求め、汗ばむ熱く逞しい肉体の間で腰を踊らせ、中で精一杯に2人を愛して締め上げる。
「はぁ……っ、イッてくれ、苦しいっ、はやくぅ……っ」
 射精を請いながら涙を流し、いっそうに中の肉襞を強く絡みつかせると、2人は同時にレオンの中に精液を噴き上げ果てた。
「ああ……っ、お前の中は素晴らしい……」
 オスカーが金髪を乱し、レオンの頬に顔を擦り寄せる。
「愛している……レオン……」
 2人の声が重なり、鼓動が高鳴って内側が甘く疼く。
「……俺も、愛してるけど……っ、抜いてくれ……っ、元に戻らなくなりそうで、怖い……っ」
 快楽と恐怖に泣きじゃくるレオンに2人が顔を見合わせる。
「悪いな……」
「私達は……」
「まだ、終わらせるつもりはない」
 シンクロした2人の声にレオンが絶望を感じた瞬間、目の前が暗転した。


「ん……っ、あ……っ、はぁ……、あ……?」
 次に目が覚めたのは、妙に寒々しい場所だった。
 手脚を動かそうとするが、何かに囚われていて上手く動かない。
 リンネルのシャツは身に着けてはいるものの、切り裂かれたようにズタズタになっている。おまけに下半身は丸ごと脱げていて、何度も果てたらしいペニスが下腹の上で萎えていた。
「な……何……?」
 酷い状態の自分に驚いた瞬間、何かが尻の中でのたうつように蠢くのを感じる。
「っひ……!?」
 その感覚は、先ほどレオンとカインが自分の中を犯していた時の苦しくて甘い悦楽と全く同じだ。
 植物はしばらく激しく動き、レオンの中でドプドプと何か粘液を放出して、また静かになった。
 恐る恐る自分の下半身を見下ろす。そこには、ムチのような茶色の植物の太いツルが何本も後孔に入り込んでいるのが見えた。
 四肢を見ても、同じものがしっかりと、まるで意思あるもののように絡み、レオンの身体の自由を奪っている。
「なんっ……!?」
 必死に首だけを動かして周囲を見回す。
 自分の体重を支えている黒い樹皮の枝と、密生した葉。その合間に人の皮膚の色をしたあの生々しい果実がぶら下がっているのを目にして、やっとレオンは思い出した。
「あ……っ」
 自分はこの果実を食べて気を失ったのだ。
 そしてその間にあんな夢を見て、どういわけか、今こうしてこの木に囚われている。
「……っ!」
 頬が熱くなり、レオンはますますジタバタと激しくもがいた。
 こんな格好を、もしオスカーを訪ねてくる町の誰かに見られたらと思うと気が気ではない。
 せめて腰の手が剣に届けばツルを切ることが出来るのに、それを阻止するかのように植物がしっかりとレオンの四肢を繋いでいる。
 まるで食虫植物に捕らわれた虫の気分だ。
 いや、事実そうなのか――。
 ゾクリと悪寒が走り、恐怖に全身が引き攣る。
「だ、誰か――た、助けてくれ……っ!」
 命の危険からそんな言葉を口にしたのは生まれて初めてかもしれない。
 それだけの緊急事態だった。
(カイン、カインっ、カイン……!! 助けてくれ殺されるっ……っ、お願いだ……!!)
 彼に届くように、心の中で強く名前を叫んで望む。
 その内にまた、レオンの中で太いツルが動き出した。
 その動きが、何かに似ていることに気付く。
 快楽の中枢を探り、激しい動きの中でもそこを的確に擦り上げる――いつもカインがレオンを愛する時の動きと全く同じだった。
 何故、植物がこんな事をするのか訳が分からない。
 恐怖に震えているのに、レオンの下半身は知っているその動きに勝手に昂ぶり、甘い快楽を貪り始める。
「……んぁ……っカインん……っ」
 愛しい神の名を呼びながら腰を揺らすと、植物のツルがまた幾つも上からは伸びてきて、レオンの身体を包むように愛し始めた。
 真っ赤に色づいた乳首を細いツルが締め上げ、半勃ちのペニスの尿道口にも同じものが入り込み、奥深く侵入していく。
「あァ……っ、痛、……そんなところまで……っ」
 グヌグヌとペニスの根元まで侵入したそれが、直接その奥にある快感の塊を刺激し、レオンの後孔を無理矢理に反応させようとする。
 その動きも、まるきりカインの尾の動きを完全に模倣している。
「あっ、……くぅ……っ、」
 堪らずに尻の奥を強く締め上げると、中に入っているツルは嬉しそうに反応して震え、またドクドクと大量の液体を吐き出した。
 まるで、カインに中に出されているようだ――。
 そう思うと堪らなくなり、体の奥が勝手に熱く火照る。
「はぁっ、カイン、いやだ……っ、イク……っ、」
 大量の液体が溜まっているのか、腹の中が苦しい。
 その感覚に酩酊したようになりながら、ツルに尻を激しく犯されて、ビクッビクッとわななきながらイキ果てた。
「はぁっ、んッ、やめ、とめてくれ、アはァッ、またぁ……っ」
 尿道を塞がれているせいか、絶頂がずっと尾を引いて止まない。植物はそれを感じているかのように何度も何度もレオンをイカせようと動き続ける。
(もう……ダメ、だ……っ)
 力の限り暴れた挙句、更に無理矢理イかされている疲労感が重なり、意識を保っていられない。
 全てを諦め、レオンは再び意識を手放してしまった。


「おいっ、目を覚ませ、レオンっ、レオン!!」
 カインの叫び声が鼓膜に痛い。
「……うるさいな……聞こえてる……」
 寝ぼけながら、レオンは重い目蓋を開いた。
 いつもの寝室の天井が見え、ぼんやりとしながら左右を見回す。
 目の前には血相を抱えて此方を覗き込むカインがいる。壁際の方には何故か、左右対称に目の上に青タンを作った素顔のマルファスとハルファスがいた。
 視線を戻し、昼間なのに変身を解いているカインに改めて驚く。よほど焦ったのだろうか、こんな余裕をなくしている彼の顔は初めて見る。
 一体何があったのだろう――と不思議に思って、今しがたまで自分が植物に捕らわれていた事を思い出した。
 一気に狼狽が蘇り、跳ねるように体を起こそうとする。
「かっ、カイン……っ、さっき、さっきおかしな果物の木が庭に……っ、い、っ痛……っ」
 途端に全身が激しい筋肉痛になっている事に気付き、ベッドに倒れこんだ。
「分かってる、無理すんな、もう大丈夫だ……! あの木は根も残さず燃やした、落ち着け、レオン……っ、酷え目に遭ったな、遅くなって悪かった――」
 どうやら、カインが呼び掛けに答え助けに来てくれたらしい。
 あんな間抜けな姿を見られた方おもうとひどく恥ずかしかったが、何より、ちゃんと来てくれた事が嬉しかった。
「身体は無事か? 植え付けられた種は全部俺が抜いてやったから、安心しろ」
「……種……?」
 意味がわからず聞き返す。
「ヒトクイモモの種だ。こいつら、自分たちの好物だからってコッソリ苗をこの世界に持ち込んで、畑仕事のついでに世話して育ててやがった」
 カインが憎々しげにマルファス達を睨み付ける。
 彼らは縮み上がり、恐縮した様子で互いに身を寄せ合った。
 言葉こそ発しないものの、ペコペコと交互にレオンに頭を下げている。
「あの木は人間にはすげえやばいヤツだってことを、あいつら知らなかったんだ。実を食べた人間の気を失わせて、その間にそいつの記憶を読みとって、恋人だとか、好きな相手だとかに成りすまして、幻を見せながら体の中に種を植え付け――」
 説明を途中で止めて、カインがレオンの顔を覗き込む。
「お前、誰が見えたんだ……?」
「――……。その、」
 レオンは絶句した。
 どうやら自分は、幻覚を見せる神の世界の植物を口にしてしまったらしい。
「それは……」
 カインとオスカー。
 両方が現れたなどと言ったら、カインはまた怒りそうだ。
 彼はいつもレオンが「本当の自分」を愛する事を望んでいるのだから……。
 自分にとっては、どちらも掛け替えのない彼自身なのだけど。
 一瞬迷って、レオンは小声で言った。
「もちろん、……お前だ……。その、来てくれて……ありがとう」
 嘘が下手なことを自覚しているので、堂々とは言えない。
 カインが明らかにホッとしたように微笑んだ。
「全く人のフリして恋人寝とるなんて、ありえねえ。大体、動植物の持込は重大なルール違反だ。父上に黙ってやる代わりに、あと50年はタダ働きさせてやるからな」
 マルファスとハルファスの方へ言い渡すと、彼らは情けない顔を互いに見合わせていた。
 カインが身を屈め、レオンの額に口付ける。
「お前は少し休んでおけ。俺は戻るが、何かあったらまた助けを呼べよ」
 ひるがえった彼の髪が黄金色に変わり、その服が黒衣から、幻の中で見たばかりの白い礼装に変わる。
 確かフレイの町の参事会が、彼の為に壮行会を開くと言っていた事を思い出した。
 ヒトクイモモの見せた夢の中に、何故あの姿の彼が最初に現れたのだろう。
 自分が思った以上に、あの礼装のオスカーに魅かれるものがあったのかもしれない――。
 そう思うと、少し罪深い気分になる。
 オスカーの彼もきっと、レオンは好きで堪らないのだ。
「……オスカー」
 すっかり姿を変えてしまった恋人に、その姿での呼び名で声を掛ける。
 目鼻のはっきりした凛々しい顔立ちと、肩に流れる濃い色の金髪を改めて眺め、レオンは目を細めた。
「何だ? レオン」
「……愛してる……待っているから、早く帰ってくれ」
 はにかむように告白したレオンに、蜜色の髪の貴公子は華やかな笑顔を浮かべ、頷いた。


end