聖騎士の盾


 タルダンの最北端の町、ロキが陥落した知らせは数日の内に大陸中を駆け巡った。
 大陸最強と謳われたデンメルング聖騎士団も打ち破られ、一時はロキの町に逃げ延びたという、騎士団一の剣士も行方知れず。
 更に数週間が経つと、タルダンの他の都市も次々とエルカーズに降伏し、事実上、小王国は崩壊した。
 人ではない者を兵士とし、恐ろしい強さを誇る恐怖の軍団。
 その噂は遥か南の大国、バルドルの港湾都市、ヘズの町にも届いた。
 ヘズは石灰岩を含む白い石作りの町が並ぶ、海に面した明るい南の街である。
 タルダンの崩壊は、バルドルとエルカーズを隔てる国がなくなったことを意味する。
 人々は漠然とした恐れを抱きながら、異教の国の噂を口にしていた。
 そして、図らずもこの町に流れ着いていた不死の騎士もまた、自分の故国が滅びたことを、一人身を寄せていた海沿いの宿で知った。
「滅びた……タルダンが……」
 ――あのロキの町への襲撃の夜。
 レオンは人気のない場所から川沿いに出て、一晩南へ南へと歩き続けた。
 何の旅の用意も無かったが、運良く途中で戦乱を避けて逃げて行く商人達に出会い、その用心棒になることでようやく食料と金銭とを得ることが出来た。
 彼らの目指すのはタルダン王国の南境を越え、更に進んだ先にある大国バルドルであった。
 故郷であるタルダンの首都に戻れば、敵前逃亡をした騎士として裁かれかねない。
 レオンは祖国を後にし、商人たちと共に彼らの目的地を目指すほか選択肢が無かった。
 しかし、今やその祖国も既に無いとは――。
 真夜中の蒸し暑い部屋の中に、潮騒の音が響いている。
 レオンは下着だけを身に付けた姿でベッドに横たわり、懊悩していた。
 慣れないこの土地の気候が身に応えてしまったのか、今までの旅路の疲れが出たのか、もう数日この場所から動くことが出来ないでいる。
 命がけで自分を救ってくれたジーモン神父に報いる為には、この安穏とした場所をすぐにでも出発しなければならないのに。
 こうしてやむを得ず一つの場所にじっとしていると、今まで考えなくて済んでいたことがどうしても思い出された。
 あの、悪魔のことを。
(カイン……)
 まるで親しい者に呼びかけるように、久々に心の中でその名を口にする。
 もう二度と会うことは無いだろう、この身に呪いを掛けていった悪魔。
 だが思い出したことをすぐに後悔し、レオンは汗で額に張り付いた黒髪をぐしゃぐしゃと掻き上げた。
(意味のないことをした……)
 自嘲し、もう一度眠ろうと瞼を閉じた――その時。
「――呼んだか」
 空耳か、あの艶のある声がすぐそばで聞こえたような気がした。
 すぐに消えるかと思ったが、ベッドの傍でもう一度、今度は衣擦れの音が聞こえ、体の横を気配が通り過ぎてゆく。
 幻聴だと思った。
 悪魔がこんな場所に現れるはずがない。ロキの町はエルカーズに近かったが、今レオンがいるのは遥か南のバルドルだ。
 だがその幻は狭い部屋を見定めるように勝手に歩き回り、挙句の果てにガタガタと音を立てて海側の窓を勝手に開け始めている。
「ほーお、これが海か。夜は真っ暗でつまんねえな」
 無理やりに開かれた立て付けの悪い窓から、涼しい風までがさわさわと吹き込んできた。
 ――幻ではない。
 確信し、レオンはベッドを軋ませながらゆっくりと上半身を起こした。
 風でむき出しの背中の汗が乾き、寒気すらする。
 海の匂いが強くなり、男の腰まで届く銀の髪が風に舞う。
 星明かりに輝く丸く曲がった山羊のような角、異国の軍服にローブを纏ったその下から伸びている長い尾――その異形の姿を目にした途端、レオンはリンネルのシーツの上に手を滑らせ、いつも寝る時に傍に置いている剣の鞘に手を掛けた。
 静かに引き寄せて左手で強く鞘を握り、音を立てぬように利き手で剣を抜く。
 つま先をそっと床に下ろし、両手に剣を握りしめて、ゆっくりと窓の前の男に近付いた。
 すぐ背後まで抜き足で近付き上段に剣を構えても、まだ男は気付かない。
「死ね、悪魔……!!」
 叫びと共に首筋を狙い薙ぎ払った剣を、カインは振り向きざまにあっさりと避けた。
 光を帯びた銀髪が一筋断ち切られ、絹糸のようにさらさらと床の上に落ちてゆく。
「っと! あっぶねえなあ、どういう歓迎だよ」
 その美貌には艶やかな笑みが浮かび、焦りの気配は見えない。
 レオンはもう一度無言で剣を振り下ろしたが、今度は白くしなやかな尾に剣を持つ手首を素早く拘束され、目的を阻まれた。
 尾の触れた部分に痛みが走り、痺れて力を奪われた手の平が開く。
 剣は床に音を立てて落ち、縛めだけがレオンの腕に残った。
「くっ……離せ……!!」
 半ば意固地になってもがき、振り向いた相手の赤い瞳を睨み上げる。
「分かったから少し落ち着け、レオン・アーベル。――俺と話がしたかったんだろう」
 穏やかに掛けられた言葉と共に悪魔が両腕を広げ、レオンの裸の上半身がしっかりと抱きしめられた。
「――あ……っ」
 その力強さと温かさに、がくんと膝から力が抜ける。
 こんな風にされたくて思い出した訳ではない。そう思うのに、ハリネズミのように張り詰めていた神経が凪いでゆく。
「う……っ」
 同時に何故か喉元をこみ上げるものが襲ってきて、レオンは軍服の男の胸に額を預けてそれを堪えた。
 自分は誇り高い騎士だったはずなのに、何故この男の前では弱く取り乱してしまうのか、それが全く分からない。
 カインは最早一人で立つことが出来なくなったレオンの腰を抱き寄せると、ドサリと狭いベッドに倒れ、一緒に体を横たえた。
「よく泣くよなお前」
 頬を指で包まれ、呆れたように言われる。
 そんなことは無いと否定したかったが、声が裏返りそうになり止めた。
「そんなに辛かったのか」
 妙に優しい言葉と、背中を何度も優しく撫でる力強い手に、また嗚咽が喉を突く。
 すぐ至近距離にあるカインの美貌が、自分を見つめている。
 細く通った高貴な鼻筋と、高慢な切れ長の瞳に、いつもどこか微笑みをたたえている薄い唇――。
 まだ数度しか会ってないのに、既にこの男の顔を懐かしいと思い始めている自分が恐ろしくなった。
「――……お前は、もう2度と来ないと……思ってた……っ」
「まあ、そのつもりだったが、そんな切ない声で呼ばれたら流石にな」
「呼んでない……!」
「今更意地張るか」
呆れたように言われて、レオンはかっと頬を赤くしながら話題を変えた。
「そんなことより、教えてくれ……っ。エルカーズは一体、どうなっているんだ……。ロキで襲ってきた兵士に怪物がいた……」
 カインがレオンの汗ばんだ黒髪を梳くように指を通し、青白い瞼を伏せた。
「――エルカーズ人は俺たちのような存在を呼び出しはしたが……」
 思い出すように赤い瞳が細まり、薄い唇が言葉を紡ぐ。
「俺も他の神も、奴らのつまらねえ望みを叶えてやる気はさらさらなかったから、エルカーズ人達は随分落胆していた。俺たちは別に、奴らの奴隷じゃねえからな」
 その言葉には素直に頷けた。
 カインはエルカーズ人にとっては敵である、聖騎士のアレクスや自分にも接近し、形はどうあれ助力さえしている。
 エルカーズの一方的な味方という訳ではないことは、何となく察しがついた。
 悪魔が言葉を続ける。
「だが、王と王都の神官達は諦めなかった。召喚するだけじゃ思い通りにいかねえなら、神の力を自分の物にする方の秘術を実行したわけだ」
「神の力を自分の物に……?」
「主神バアルを、王の体の中に取り込み、その力を思うがままに操る秘術だ。そんな所業を成し遂げたエルカーズの王は今や、神と一体となったって訳だ。まあ、当初の奴らの思い通りかどうかは知らねえけどな」
 どこか投げやりな調子で溜息をつき、カインの指がレオンの顎を辿り、少し厚めの下唇をなぞるように愛撫した。
「お、お前の父親なんだろう……!? 取り込まれたって……それでいいのか」
 悪戯をする指を手で掴んで止め、聞き返す。
「いいも何も、お前ら人間が欲望に走った結果だろ。あいつらは魚だのカエルだの、丈夫で役に立つ兵士を量産して、世界征服でもなんでも好きにすりゃあいい。別に父上がどうなろうが、俺には関係ねえし」
 冷たく言い放ったカインに、レオンは激高した。
「化け物に姿を変えられた人間達はどうなるんだ!? ……どうすれば、もとに戻せる……!!」
 ベッドを軋ませて体を横転させ、レオンはカインの胸倉を掴んだ。
「……もとに戻せる術は死のみ、だろうな。あれは単に、王に都合のいいように姿を変えられただけの奴らだ。まあ、長いこと経つと中身も人間じゃなくなって、扱いづらくなるだろうが」
 冷静な返答にレオンは絶句した。
 ジーモン神父に託された希望が、こんなにあっさりと潰えてしまうとは。
「そ……んな……」
 深い絶望に襲われ、レオンは身を震わせた。
 カインが片眉を上げ、呆れたように続ける。
「そんな落ち込むようなことかよ。――そうだ、まあ、全く方法がない訳じゃない。王の首を跳ねて、父上を人間の体から開放するっていう手もある」
 ハッとしてレオンは目を輝かせた。
「そうすれば、魔法は解けるのか……!?」
「可能性はある。けど無理だな。神の力を持った人間を倒せると思うか? お前みたいな、人よりちょっと寿命が長くて傷がつかないだけのタダの人間に」
「……っ」
 それを言われてしまえば辛いものがあった。
 自分一人では大局がどうにもならないことは、ロキの町の戦闘で嫌という程知った所だ。
 レオンは自分の無力さを噛みしめ、押し黙った。
 その張り詰めた表情に、カインがお構いなしに覆いかぶさり、唇を近づけて来る。
 口づけられる寸前に、レオンは顔を上げ、一か八かで彼に問いかけた。
「……。お前に協力してもらうことは、できないのか」
 カインのルビー色の瞳をまっすぐにじっと目を見つめる。
「はあ? 何で俺がそんな面倒なことを。ごめんだね」
 美しい形をした唇が嘲笑する。予想通りの返答に胸が痛んだが、怯むことなく言い返した。
「人が大勢死んでいるのにか」
「元からお前らは戦争して散々殺しあってたじゃねえか。今と何が違う? 誰が死のうと俺には関係ねえよ」
 冷徹に言い放たれ、馬鹿なことを口にしたと後悔した。
 やはりこの男は悪魔だ。
 独特の価値観を持つ、冷たい悪魔――。
 レオンは諦め、カインの軍服を掴んでいた両手を離した。
「分かった。聞きたいことはみんな聞いた……。もう、こんな場所に居る理由もないだろう。帰ってくれ」
 沈んだ声でそう言って、顔を背けるようにして寝返る。
 だが、背後で悪魔は消え失せなかった。
「帰ってくれだ? お前のここはそうは言ってない」
 大きな手が背後から周り、ぎゅっと股間を掴まれて、ヒッと声が漏れる。
「……っ、何、する……っ、あ……っ」
 下着越しにそこをやわやわと揉みしだかれながら、耳元に囁かれる。
「……何でおっ勃ってんだよ。さっきから真面目な話ししてんのに、ずっと硬くしてたろ。スケべな奴」
 露骨な指摘に、羞恥の余りレオンは耳まで赤くなった。
 同時に、そうして軽く触れられただけで暴発寸前まで高まってしまう自分に心底嫌気がさす。
「お前が触るからだろうが……っ!」
「触るって。背中とか髪とか、単なるスキンシップだろ。お前、ちゃんと抜かねえからそんな感じ過ぎんだよ」
 まるで自分のせいのように言われ、涙ぐむほど恥辱が極まり、レオンは上半身を捻って相手に言い返した。
「ち、違う……! 前は別にこんな体じゃなかった……! お前があんな事教えるから、我慢が出来ないようにっ、なったんだ……っ」
 涙で滲んだ視界の中で、悪魔が少し驚いたような顔をした。
 が、すぐにニヤッと唇を引いて笑み、からかうようにその手が布越しにペニスを扱く。
「あんな事? どんな事だよ」
「っふあ……いやらしい、こと、……っうぁ……っ」
 下着の布が先走りでぐっしょりと濡れ、裸の胸が呼吸で激しく上下する。
「へえ。俺はこのグチョグチョに濡らしたいやらしい弟子のセンセイって訳か」
 うなじに音を立ててキスされ、それにも目眩がする程感じ過ぎて、ブルブルと全身が震えた。
 あの修道院での時から一度も自涜をしていない体は、まるで全身が性器になったかのようにカインの愛撫の全てに感じ過ぎてしまう。
 それを察したのか、ペニスを愛撫していた手をイク寸前で離され、今度は紅く勃起した乳首をもてあそばれ始めた。
 指の腹で軽く触れる程度に押し上げられ、決定的な刺激は与えないまま、爪の先で充血した乳頭を捏ねられる。
「あっ……あっ、あっ」
 そんな場所に触れられ、少女のように高い声をあげて感じてしまうことが堪らなく恥ずかしい。
 レオンはもじもじととベッドの上で太腿を擦り合わせ、痛いほど充血したペニスへの刺激に焦がれた。
 汗ばんだ後ろ髪にキスされながら乳首を軽く引っ張られ、仰け反りながらびりりと電流の走るような淫らな感覚を貪る。
「ふっ……あっ」
 乳首の先を強く押し潰されると、その刺激だけでビクンと腰をくねらせながらイッてしまい、下着の中があっという間に熱い体液でドロドロになった。
「あっ……アッ……は……あっ」
「もうイッたのか? 加減してやったのに、いやらしい奴」
 耳元で嘲笑されながら、カインの指が胸から下腹へと滑り降りて行く。
 遂には下着の裾をめくられ、肩越しに中を覗き込まれた。
 大量に吐き出したネットリとした精液がそこに糸を引いている。
 そんな様を見られる羞恥に、レオンは顔を覆った。
「やめろ……見るなあ……っ」
 背中に密着され、その声もどことなく甘いものになってしまう。
「今更何言ってんだ。俺がちょっと触っただけで全身やらしいピンク色にして悦んでる奴が」
 下着の尻側がずらされ、隙間からカインの白い尾の先が密かに入り込む。
 その先端が尻の狭間を割るように潜り、蟻の門渡りを擦りつつ、柔らかな双球を背後から捏ね回した。
「ひっ……やっめ……っ」
 イッたばかりの性器には過酷な刺激に、生理的な涙が溢れる。
「……。なあ、お前俺のこと好きだろ」
「!?」
 唐突に尋ねられて、レオンは汗ばんだ太腿をビクンと震わせた。
「……なん、だ、それ……」
 好き?  ――俺が、カインを?  理解の範疇外のことを突然言われて頭が混乱する。
 もしかして、体がこんな風になる事を揶揄されているのだろうか。
「勘違いするな……っ! 悪魔なんかを好きになる訳がないだろう……?!」
 激しく否定すると、カインは尚も食い下がってきた。
「だってお前、あの坊さんだらけの家に住んでた時、俺の名前呼びながらオナニーしてたし」
 その言葉に、今度は完全に頭が真っ白になった。
「な……ん……で……」
 唇を震わせて呆然としていると、尻の狭間をスリスリと動いていた尾が、急に後孔の中にニュルリと侵入した。
「はあっ……あっ!?」
「あの長ったらしい服を乳首見えるぐらい盛大に持ち上げて、チンポの皮ひん剥いていじって、アンアン喘いでたよな」
「……!!……う、そ……」
 何度も首を振り、情けなく眉を寄せて声を荒げる。
「俺が、呼んだ時っ……来たのか!?」
「来てたというか、見てたというか。邪魔しちゃ悪いかと思って姿は現さなかったけどな」
「っう……なんて……なんて事を……っ」
 酷すぎる。本人に見られて居たなんて。
「俺の名前呼びながらイッてるとき、尻の穴ヒクヒクさせて物欲しそうにして」
 ショックすぎて完全な無抵抗になった体の中を、チクリと痛みが走る。
「あっ……お前、また……!」
「それでも、俺を好きじゃねえって言うのかよ」
 何故か悪魔の声は僅かに怒気を帯びている。
 それを不可解に感じながら、レオンは首を振った。
「あれは、ただ、したいからしただけだ……っ」
「へーえ。生まれて初めてのセックスで、騎士様は発情期って訳か。ならもう一度やれよ。ほら、今度は尻の穴いじってイッてみろ」
 レオンにはカインが何故そんな風に挑発して来るのかが分からない。
 戸惑っているとツプンと尾が抜かれた。意志を持つように動くそれが、今度はペニスの根元に下から巻き付いて締め上げてくる。
 カインの両手が、まるで子供にそうするように背後から濡れた下着を無理やり下ろし脱がせた。
 蒸れた精液の匂いがむっと鼻を突き、レオンはイヤイヤするように首を振った。
「……なんで俺がそんな事やらなきゃなんない……っ」
「や・れ」
 有無を言わさぬ口調で強要され、充血したペニスを尾でギチギチと締め付けられる。
「あうぅっ……! する、するから……!」
 そこを人質にされている本能的な恐怖に負け、レオンはついに陥落した。
 尾はペニスに残したままカインがそばを離れる。
 悪魔は酷薄な表情を浮かべ、そのままベッド際の壁にもたれて見物を始めた。
 羞恥に堪え、身体中を真っ赤にしながら仰向けで太腿を自ら大きく開き、尻を浮かせる。
 視線を感じながら、震えて冷たくなる指を尻側からヌプ……と後孔に挿入した。
 そこは恐ろしいほど柔らかくなっていて、すんなりと指先が呑み込まれていく。
 体を変えられてしまう恐ろしさを味わいながら、深く根元まで指を入れ、悪魔に見せつけた。
「こ、こう……か……?」
「入れただけじゃダメに決まってんだろ。動かせ」
「く、う……っ」
 言われるがままに出し入れを始めると、先ほどの悪魔の尾の刺激のせいか、そこがトロトロに柔らかく濡れ始めるのが分かった。
 見られていると思うと、不器用なその動きも堪らない性感を生む。指に肉が絡みつき、奥まで入れる度にチユクッチュクッと淫らな水音が立った。
「カイ、ン……っ、恥ずかしい……っ、勘弁してくれ……っ」
 助けを求めるように視線を送るが、相手はサディスティックな赤い瞳で楽しげに見下ろすだけだ。
「クックッ。完全に発情期のメスだな、お前……そのまま続けろ」
 カインがバサリと黒いローブを床に脱ぎ捨て、軍服のズボンの股の合わせ目を解く。
 その間から飛び出すように勃起した赤黒く長大なペニスが現れ、レオンの視線を奪った。
(――あんなものが、俺の中に……っ)
 指を入れている場所が無意識にキュウッと引き締まる。
 悪魔は膝でレオンの首筋を跨ぐように上にのしかかり、濡れた弾力のある亀頭を唇に押し付けてきた。
「歯、立てねえように舐めろ。指は留守にすんなよ」
 嫌だと意思表示をする前に、鼻を指で摘まれて顎を無理やり開かされた。
 レオンの唇いっぱいに、凶暴な雄の滑らかな肉塊が入ってくる。
 塩気のある体液が舌の奥を刺激し、嘔吐感に何度もえづきながら、それでも容赦無く喉奥をズブズブと突かれ、息ができない。
「ンンっ!! んんんっ!!」
 抗議の声を上げると、カインは多少手加減するように挿入を浅くした。
 レオンのペニスを縛めていた尾も僅かに緩まり、今度は上下に皮膚をずらすように器用に陰茎を扱き始める。
「んふ……う……」
 途端に後孔が切なくなり、指を二本に増やして自分の中をゆるゆると出し入れした。
 口に咥えているものをチュッチュッと淫らに音を立てて吸いながら、少しずつ快楽に没頭していく。
 だが、カインの尾は絶頂をもたらすほどの刺激はくれず、自分の指の動きも稚拙過ぎて、悦びの中枢には届かない。
 生殺しのような状態が長く続き、ついにレオンは根負けして、悪魔にオーガズムを強請ることを考え始めた。
 涙目を相手に向け、チュウ……ッと強く亀頭を吸って舌を陰茎に絡める。
 指ではすっかり柔らかくなった孔の襞を拡げ、淫らな体勢で暗に訴えた。
 そんなレオンの態度に満足したのか、カインが唇の端で笑って自分の雄を引き抜く。
 彼は尾をしならせながら上半身の服を脱ぎ捨て、更にエスカレートした要求を突き付けた。
「尻を向けてうつ伏せになれ。イかせて欲しかったら、メス犬になって俺を誘ってみろ」
 酷い侮辱に、レオンは少なからずショックを受けた。
 そこまでしなければこの身体を満たす快楽を与えられないのか。
 絶望しながら、それでも尋常でなく焦がれている肉体に急かされ、おずおずと腕を立てて背中を晒す。
 指がふやける程ずっと拡げられていたアヌスは濡れて緩み切っていて、ヒクヒクと犯されるのを待っていた。
 頭をベッドに預け、尻だけを高く上げる屈辱的な体勢に嫌悪で一杯になるのに、開いた脚の間のペニスは甘い期待で痛いほどドクドクと脈打つ。
「ここ、にっ……」
 人差し指と中指でアヌスの周囲を拡げて悪魔に見せつける。
 トロ、と体液が双球に向かって垂れ落ちるのが分かった。
 両手で尻たぶをぐいと掴まれる感触がして、すぐに怒張が体の内側を押し開いて入ってくる。
「ふあッ……!」
 それが腹側の1番触れて欲しい一点を突いた瞬間、軽く絶頂が訪れて膝がガクガク震えた。
 既に何も触れていないはずのペニスから精液が飛び、リンネルのシーツを汚す。
「二回目のくせに入れただけでイキやがって。やっぱりお前、俺が好きなんじゃねえのか」
(す、き……?)
 何故カインがそこに拘るのかが分からない。
 誰に対しても恋愛感情を持ったことが無い自分には尚更――。
 獣のように尻を高く上げ、肌の弾ける音をさせて犯される。
 そうして蹂躙されていることにも恥ずかしい程激しく感じてしまう自分がいる。
 ――また、悪魔の思惑に自ら堕ちてしまった……。
 快楽と絶望の最中で、急に胸を抱き上げるようにして体を起こされた。
「? 何……」
 振り向きざまに口づけをされ、膝に乗せるような恰好で抱きしめられる。
「ン……っ」
 必死に接吻に応えると、カインの腕がレオンの両腿を抱えて持ち上げ、中を細かく突かれ始めた。
 途端にキュウンと腹の内側が収縮し、後孔から生まれる快楽をより感じてしまうようになった。
「ンッ、んふっ、うっ」
 甘い鼻声が漏れ、快楽に痺れる舌を自分からも深く絡める。
(……カインの、キスは好きだ……)
 熱い舌を擦り合わせながら、蕩けた意識で自覚した。
 ――自分を軽々と抱えている掌の温度も、好きかもしれない。
 だが、人肌に飢えることと何が違うのか分からない。
 ほかの誰かとこんなことをしてみれば、理解出来るのだろうか――?
「っ……お前ん中、すげえ搾り取られるっ……中に出すぞ」
 唇の表面を優しく啄ばみ舐められながら、熱された精液が腹の奥に溢れ出る。
 自分の中で脈打ち続けるペニスを強く締め上げながら、レオンも再び上り詰めた。


「――あの時のお前、可愛かったよなあ」
 カインが懐かしむように深い溜息を吐く。
 ……2度目に交わったあの夜から、気付けばもう百年近くも経ってしまった。
 ヴオーダンの宿屋の二階の小さな部屋に、ギシリとベッドの軋む音が響く。
「最近は、俺の言うことあんまり聞かねえし」
「悪魔の言うことなんてそうそう聞いてられるか……っ」
「まだそうやって俺を悪魔呼ばわりするし」
「悪魔以外の何者でもないだろう……」
「それ、人の上に乗っておいて言うセリフか?」
「……っ!」
 それを言われては言葉もない。
 レオンは全裸で自ら膝を開いてカインのペニスに股がり、それを堪能するように腰をうねらせている最中だった。
「まあ、益々スケベになった今のお前も好きだけどな、俺は」
「ンッ……」
 好き、という言葉に何故か鼓動が早まり、繋がっている場所が無意識にギュッと収縮する。
 ――こういう自分が嫌で、最近はカインが来ても交接するのをなるべく避けようとしてしまう。
 神への信仰を楯にし、来る度に相手を罵り嫌悪をあらわにして、物理的にも距離を置こうとしているのに、カインはそれを許してくれず結局こうなってしまう。
 お陰で益々近頃の自分はおかしい。最中に、自分でもうまく説明できない感情が湧く。
 寂しいような切ないような……。
 そして一旦抱かれれば感じすぎておかしくなる。
「今のお前は、あの娼婦なんかよりずっとココで精液搾り取るの上手いよな?」
 早く終わらせたいと腰を揺らす動きを早めていると、そんな風に揶揄された。
「……っ」
 無視して集中していると、カインの尾が伸びて来て、レオンの下肢で屹立しているペニスの尿道口をくすぐる。
「ッ、そこはっ」
 嫌な予感がして身をよじるが、間に合わない。
 小さな穴にギチギチに尾の先端が入り込んで来る。
 痛みは少ないが、奥に入り込むほどペニスの中を支配する存在感が凄まじい。
 精液の通り道が完全に塞がれた所で、それが鈴口をゆっくりと出入りする。
「だ、ダメだ、いや」
 安穏と横たわって居たカインが急に身を起こし、レオンの胴を対面で抱き締め、腰を使い始めた。
「っあっ、両方はっ、あああっ」
 自分で快楽をコントロールすることが出来なくなり、気絶しそうな程の性感に目眩がする。
 悪魔の性器は完全にレオンの感じる場所を把握済みで、どこをどうすれば支配できるのか分かっている。
 レオンの体もその形と熱を忠実に覚えていて、一度繋がれば二度と離れたくないと際限なく貪欲になる。
 カインは来る度にそんな彼を堪能し、散々なぶり倒すのだ。
「乳首も昔よりデカくなったか?」
 色の濃くなった胸の突起をからかうように弄ばれ、尻穴の収縮と淫らな声が止まらない。
 既に何度かイッているのに、鈴口を塞がれているせいで果てることが出来ず、快楽の責苦を延々と味わわされる。
「あぁあ……っ、カイン、許し……俺の、っ、壊れる、からあ……っ」
「お前の何が壊れるって?」
 尿道口をクチュクチュと出入りする尾が激しくなり、同時に尻の中の快楽の器官をグリグリと責めあげられる。
「ンふァっ、尻の中も……チンポも……っ!」
「忠実に神に仕える男がそんな言葉使っていいと思ってんのか?」
 カインが耳元で辱めてくる。
「っあ、だって、ほんと、に、壊れるっ」
「そんな時はどうやってねだるんだ」
「……はァッ、あっ、……イ、イかせて……」
「どこでイきてえんだよ、淫乱な騎士殿」
「お、お前のチンポで、尻の穴、ナカ、突いてっ、イかせてくれ……っ」
「上出来。素直なお前は好きだぜ、レオン」
 スルン!と尾が尿道口から抜け、代わって凶暴な程の突き上げが激しくレオンを襲う。
 数秒後には望み通り大量の精を吐き出し、レオンは果てていた。


 北の国の夜は長く、二人が長い時間を掛けて交わっても、まだ窓の外は暗かった。
 夜が明ければ悪魔はまた消え去っていく。
 だが今はまだ白い尾がレオンの片脚に懐くように絡まり、狭いベッドの隣には素晴らしい肉体を露わにしたカインが居て自分に腕枕をしている。
 窮屈だが、この時間が酷く心地良い。
 そして朝が来た時のことを考えると無償に寂しかった。
「――お前、これからどうするんだ」
 腕に触れる黒髪の感触を楽しみながら、囁くようにカインが訊く。
「……」
 その質問に、レオンはしばらく考えるように答えを躊躇した。
 言ったとしても、冷徹な反応しか思い浮かばない。
 ――この百年で、エルカーズ王国を巡る情勢は変化していた。
 彼らは最初の数十年で大陸の三分の二を征服した。
 ところが、エルカーズの王は彼らの言うところの「神」、悪魔バアルと一体となっているうちに身も心も魔物へと成り果ててしまい、まともな指揮が取れなくなったことでその版図の拡大は現在まで止まっている。
 他国との戦闘兵器として怪物のような姿にされた兵士達も、やはり時間が経過するうちに理性を失い、魔物化する者が次々と現れ、エルカーズの領土内は当初を超える混乱と崩壊に襲われ始めた。
 事態を収拾出来なくなった神官や貴族達も次々と周辺の他国に亡命しているという。
 レオンはこの百年、名もない傭兵として各地を転々としながら魔物化したエルカーズ兵と戦い、周辺国からエルカーズの領内に侵入し、王を暗殺する機会を伺っていた。
 そして今こそが、その絶好の機会だと感じている――。
「……行くんだな? エルカーズの王都ヴァーリに」
 黙っているレオンの胸の内を読み透かし、カインがもう一度訊く。
 レオンは閉じていた瞼を開け、静かに頷いた。
「お前はついて来る気はないんだろう」
「……」
 今度は逆にカインが黙ってしまった。
 子供にするように額に口付けが落とされ、顔をじっと見つめられる。
「また、お前が泣いて逃げ帰ってきたら、この胸に迎えてやるよ」
 その言葉に、苦笑いしか浮かばない。
 言いようのない寂寥にもう一度目を閉じ、顔を逸らすように寝返りを打った。
 悪魔はそれ以上何も言わず、ずっと髪を撫で続けている。寂しさを含んだその心地よさの中で、いつしかレオンは浅い眠りに落ちていた。

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